京料理「なかむら」の歴史は文化文政からはじまる。
都の公郷衆に供することを生業とした初代、 調理の技を磨き鯵の神髄に迫った二代目、茶懐石の出張料理を得意とした三代目、俵屋、柊家、炭屋の各旅館に仕出し料理を納め、京料理「なかむら」を設立した四代目。
現代にいたるまで「即味心也」を肝に銘じ、代々一人の世継ぎだけに伝える一子相伝を頑なに守り精進を続けている京都を代表する料亭のひとつだ。
「なかむら」は先祖代々から譲り受けて来たもの。一時的に「お借り」し、譲り受けたものを着実に後の代に繋げ、より良くして返す。という気持ちで日々仕事に向き合っています、と語る六代目主人である中村 元計(なかむら もとかず)氏だ。
料理人の修行の前に、嵯峨嵐山の「天龍寺」僧堂に禅を学びに行き、平田精耕老師に参禅師事。2年におよぶ修行僧の生活では、自身を律し、お経を読んだり、禅問答に接し日本文化に通じた。掛け軸や器など、日本人の心を表現した様々な作品に触れ、結果自分の尺度に自信をもつことにつながった。その後父の元で料理人として道を歩む。何代も続くと、どうしても代を守る・代を継ぐということのみ注目されがちだが、慣習に囚われること無く、自身の尺度と照合した上で、新しい取り組みを実践。本物の日本料理の啓蒙、現代人の和食離れ、日本の食料自給率の低さや、廃棄の多さに目を向け、日本料理を受け継ぐ担い手の一人として率先して活動・発信している。
町屋の風情漂う通りにある「なかむら」。白い暖簾をくぐると打ち水がされた奥深き世界が広がる。すべてお座敷の歴史とほっこりあたたかみを感じることのできる造りは代々店主をはじめとしたもてなしの心のあらわれ。一階は八畳、控えの間を備えた座敷、茶室をイメージした座敷。趣きのある木のしなりを感じながら二階へあがると十畳と八畳の座敷、そして三十畳の広間がある。心遣い行き届く広さとなっている。
歴史とともに引き継がれきた「なかむら」代表する料理は白味噌仕立ての“雑煮”。一年を通じてコースで供される。一子相伝とは、秘伝の味のことでなく、先代から口では教わることのできない調理法とともに、料理とお客様への謙虚さの姿勢、そして一期一会の心意気を受け継ぐことだという。京都の歴史を、神髄を、全身で感じてほしい。
writer Chie